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房一はまだ考へ深さうにしていた。
と云つた。
「高間さん、ひとつ何とかして引上げさせて下さい。このまゝでは――」
が、練吉が駆け登つたのを見ると、先方の男は急に威丈高になつて怒鳴つた。
「大きいかね」
紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
河原町の評判では、徳次は怠け者といふことになつていた。恐らくそれは、河から上つた徳次が水をはなれた河童のやうになすところを知らぬげなぽかんとした様子に起因していたのだらう。彼は怠け者ではない。彼にはきつと、自分の気に向いた仕事にだけ熱中する子供染みた無邪気さが他の人よりはよけいに残つていたのだ。その証拠には、河に下り立つてからの彼の動作には、別人のやうにきびきびした手順のよさと云つた風なものがあり、間もなくわき目もふらずに働きはじめたのを見ても判る。冬近い時候なのに、額には汗が流れていた。彼は時間のたつのを忘れていた。
かういふことになると、彼の話振りには一種の無邪気さが現れて釆る。
「やあ、しばらくで」
その外から見れば屋根と築地塀だけのやうな家の前で、三人の男が立つてしきりと話していた。
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。